立山ひろみさんインタビュー

「わたし、道に迷うの得意です!」

 対談相手:ニグリノーダ主宰 立山ひろみ(T) インタヴュアー:エル森(M)

M まずは、うりんこさんとの出会いからお聞かせ頂けますか。
T 以前『ガリバー』という作品の演出をオペラシアターこんにゃく座でやらせてもらった時に、制作の方が観に来て下さっていて、それがきっかけで今回声をかけて頂けたんです。
M 『アリス』をやろうと思ったのは?
T うりんこ劇場で何度か打ち合わせをする中で、私はニグリノーダというユニットを主宰しているんですが、旗揚げ公演で行った『楽園』という作品について話した際に、それは阿部公房の「壁」とルイス・キャロルの「アリス」を下敷きにしていたんですが、そこで“アリス”の話題がでて、俳優の中でも以前からやりたいと思っていた方たちがいたこともあり決まりました。
M 今までも子ども向けの作品をつくられたことはありますか?
T 企画もので『赤桃』という作品をつくったこどがあり、それは0歳~2歳の乳幼児を対象にしていて、小さな会場で行ったんですが、観に来て頂いた親子の方にもワークショップを通して参加してもらいながら、一人一人が物語の主人公になってもらえるようにと工夫をしました。
M ちなみに『赤桃』とは?
T 「赤ずきん」と「桃太郎」を合わせて、自分を食べてくれる狼、というか運命の人がやってくるのを待ち焦がれるひとりぼっちの女の子と、鬼退治に疑問を持っているために行かずいる男の子の話です。
M 子ども向けの作品には以前から興味があったんですか?
T 子どもっていうのは天才だと思いますね。黒テントにいた時に、山本清多さんと『セロ弾きのゴーシュ』という作品を演出したんですが、小さなお子さんも観客でいて、物語の人間関係などきちんとわかって観ているんですね。それに、私の姉に2歳の子どもがいるんですが、いつも行く道だと、曲がる場所なんかで必ず反応するんです。でも覚え方っていうのは大人と違う知覚の仕方をしているんでしょう。子どもを通して教えられることっていうのは他にもあり面白いと思っています。
M 子どもといえば『アリス』には、アリス以外にイーディス(妹)とロリーナ(姉)が登場しますね。
T そうですね、だいたい3つくらいずつ年齢が離れている設定なんですが、今回『アリス』の脚本を書く上で、アリスだけを目立たせるのではなく、イーディスやロリーナの人生や物語というのも描きたかったことの一つですね。
M アリスがイーディスが夢中になって遊んでいるのを見て、私にもあんな時があったのかなと、つぶやくシーンや、ロリーナが自分にはアリスより大人になってしまったことを悲しむ場面もでてきますね。
T ロリーナが物語の最後に出てくるというのは、実は原作に忠実なんです。子どもの成長は速いですが、その時々の感性は失われるものではなく、大人になってもずっとそばにあるものだと思います。
M ところで、立山さん自身の子どもの頃は、どんな女の子でした。
T 私ですか…、私にとってはつらい時期でしたね。というのも、幼い頃から「なんで生きているのか」ということをずっと考えていたんですね。「意味がないなら死んじゃってもいいんじゃないか」とひとりで思いつめる日々が続きました。でも、そうして思い悩んだことで、現在がんばれている自分がいるんだと思うんです。今回のパンフレットにも書かせて頂きましたが、その時の自分が私の中で今でも生きていて、私を支えてくれているんだと感じますね。
M 演劇にはいつ頃出会われたんですか?
T 両親が共に芸術家だったこともあって、美術館や劇場に行く機会が他の子に比べ多かったとは思います。中学の時にTVで宝塚を見て興奮している私に対して、親は、さすがだと思うんですが、すぐに(宝塚の)チケットを用意してくれたんですね。でも子どもの頃は、私はキャリアウーマンになるのだと思っていたんです。そして中学、高校とやりたいことをしぼり込んでいく中で、演劇をやろうと決めました。
M それで上京されたんですね。
T 地元(宮崎)でも探したんですが、なかなか見つからず、東京に出るしかないと思い国公立で演劇学科のある大学を選びました。そこで役者や裏方の勉強もしたんですが、3年生の時に「オイディプス」を題材にして、西洋の古典と東洋の古典を出会わせるということで、構造だけ残して、神楽の勉強をして演出したんです。そこに佐藤信(黒テント)さんが観に来てくれて、演出家に向いていると言われて、演出を志すようになりました。
M 黒テントに入られてからはどうでしたか。
T ボリスビアンの『帝国の建設者』やジュネの『女中たち』など演出させて頂いたりしていたんですが、だんだん演出をやるうちに、戯曲は台詞でしか残っていないのですが、舞台では身体や音楽など言葉以外の要素の方が大きく作用する面がある中で、言葉は情報量が多くて足りなすぎるというか、言葉に対しての限界を感じましたね。それに、自分自身が正解を求めているようなところがあり、例えば、『女中たち』なら、どんなに現代的に解釈しようとか思っても、結局ジュネが描きたかった世界を求めてしまう。そういったことや、自分を追い詰めて仕事をしていたことで体調不良になったことなどが重なり、自分を見つめ直すなかで、やりたいことをやろうとニグリノーダの活動を始めました。
M 立山さんは演出をされる上でどんなことを心がけていますか?
T 演出家ってさまざまなタイプがあると思うんですが、大きく分けて、演出家のイメージで完全に役者の演技を制御するタイプ、もう一方では演技は役者にほぼ完全に任せるタイプ。前者は作品の完成度は高いものになるけど、役者の個性を犠牲にしてしまうようですし、後者は全体としての完成度に欠けることがある。私は両方のいいとこどりで、役者の中から生まれるものを育てながら作品としてのまとまりをつくっていこうと思っています。今回の『アリス』でも、俳優たちがいかに自分の中にあるものを引き出してもらうか、そしてそれを作品に織り込んでいくのが楽しいですね。
M 現在では演出だけでなく台本も書かれていますね。
T 黒テントにいた頃は、作と演出を演出家が行うというスタイルへの反発もあり、演出一本でいこうと思っていましたし、本なんて書けないと思っていましたが、ニグリノーダで、ダンサーとミュージシャンの方に自分から声をかけて企画した時にあてがきをしたんですが、すんなりと本が出来上がったんです。その時に自分一人の創造力には限界があるけれど、いろんな人の才能を引き合わせれば、可能性は無限に広がるのだと気づいたんですね。最近では茶道家の先生をくどいて舞台に上がってもらったりしています。
M へー、茶道家ですか。話は変わりますが、『アリス』の舞台セット、かなり大掛かりで小道具や衣装も多かったですね。
T 私けっこうビジュアルにこだわるんです。もちろんシンプルで力強い舞台美術も好きですが、『アリス』はいろんな劇場で公演するので、大きな劇場でも見栄えのするようにつくってあります。役者の方には作り物が多かったので、もう少し演技に集中させてあげたかったという気持ちはありますね。
M 製作大変だったでしょうね。演技も、舞台での生音あり、いろんなキャラクターが出てきたりと盛りだくさんですしね。
T 生音を舞台上で出すのは、感性を刺激するようにと取り入れました。登場するキャラクターについていえば、原作ではキャロルは皮肉をこめて描いている面もあるんですが、私はそうではなくて、人は違っているから面白いし、一般的に欠点と思われていることでも、角度を変えてみる必要があると思うんです。社会としてそういった幅が広がるといいとも思いますね。また、マイノリティな立場にいる人は、そういったことで自分を追い詰めないでもらいたいなとも思います。
M チラシにも「わたし、道に迷うの得意です」とありましたね。
T あれ、私自身、普通ではありえないような迷い方をするんです(笑)。地図をちゃんと持っていてもなぜか辿り着けない。でも、それを逆手にとって、迷えるのは才能だと思ってもいいんじゃないかと思うんです。
M 今回の『アリス』も様々な才能に触れることができますね。
T 舞台には正しい見方というのはないので、観に来て頂いた方それぞれが、思い思いに体感してもらい、その中で何かを持ち帰ってもらえればと思います。
M 最後に今後の活動等あればお聞かせください。
T 今回の『アリス』は宮崎でも来年公演が予定されています。他にもこんにゃく座さんとの新作などがあり、少し落ち着いたらニグノリーダでの企画を進めていこうかなと思っています。
M これからもご活躍を期待しています。本日はお忙しい中ありがとうございました。

2013年8月10日『アリス』終演後、武豊町民会館ゆめたろうプラザ楽屋にて収録
 
立山ひろみ 1979年生まれ。宮崎県出身。東京学芸大学美術家演劇専修を卒業後、黒テント入団。佐藤信、山本清多、斉藤晴彦らの演出助手を務める。2008年、黒テントを退団し「ニグノリーダ」を発足。幼児向け作品『赤桃』を作・演出。その他こんにゃく座公演『ガリバー』(作 朝比奈尚行/作曲 萩京子)演出、同『森は生きている』(作・作曲 林光)演出助手などを手がける。