柴幸夫さんインタビュー

「ままごと感覚!で演劇を遊ぶ」

対談相手:劇団ままごと主宰 柴幸男(S)  インタヴュアー:エ-ル森(M)
 
うりんこ劇場稽古場にて、中屋敷さんの新作『アセリ教育』の稽古を見学させてもらった後、今回の作品の演出家である柴幸男さん(劇団ままごと主宰)にインタヴューさせていただきました。

M:先ほどは稽古を拝見させていただきありがとうございます。まず、劇作家である中屋敷さん(劇団柿喰う客主宰)についてお聞きしたいのですが、(彼の)仕事をされるのは今回が初めてですか。
S:はい、初めてですね。
M:どういった経緯で。
S:もともと、同世代の勢いのある劇団として知っていて、知り合いも客演したりしてたんですよ、それで舞台を見たらすごく面白くて、僕のアフタートークにゲストとして来てもらったのが、知合ったきっかけなんです。それから、『キレなかった14歳リターンズ』という、アゴラ劇場でのフェスティバルのときに、企画者として一緒に仕事をして仲良くなったんですね。それで今回の話が中屋敷くんにあって、僕が愛知出身ということもあって声をかけてくれて、“じゃあ、是非やりたい”ということになったんですよ。
M:柴さんはご自身でも台本を書かれますけど、演出家として作品に臨むと、またちがった…。
S:そうですね、でもそんなに演出家だって自分で思ってないので、というのは、劇作家が演出するくらいにしか演出できてないと思ってて。それでそんなに戯曲の内容をブッ壊すとか、構造を大きくねじ返すとかしないので、割と僕は戯曲に忠実に演出する方だと思いますね。
M:稽古の内容についてですが、席を円形に配置したり、台本の時系列を崩しながら、シーンが代わる代わる反復され、進んでは巻き戻されたりがとめどなく続き、そこで役者は間髪いれずいろんな役に入れ替わっていました。それは、ワークショップとしてやられてるんですか。
S:そうですね、本編には活かせるかどうかわかりませんが、試してみていることの一つですね。時系列をいじくるのは『あゆみ』でもやっていたんですけどね。やっぱり同じ芝居でもいい時とわるい時があるとか、さっきのと違うなとかが如実にわかるので面白いですね。それと、俳優が走り続けている、そのプレーしている感じ、ゲームやスポーツのように演じるのが面白いなって思いますね。

M:ところで、そもそも演劇をやる出発点ってどんなところにあったんでしょうか。
S:もともとお笑い芸人になりたかったんですけど、瞬間的には面白いこと言えなくて、じゃあ、時間かけて面白いこと言う職業ってなんだろうって、そのとき、たまたま三谷幸喜をTVで見たときに、劇作家っていうのを知って、あぁ、ドラマの脚本や劇作家っていうのは、時間かけて面白いこと書けばいいから、お笑い芸人は無理でも、劇作家とか、シナリオライターとかはいいのかもしれないと思って、試してみたっていうのが最初ですね。それで演劇部に入ったので、もともとだから、演劇部の時も役者志望ではなく、脚本家、もしくは演出志望でした。
M:そうして今まで演劇を続けられてきて、演劇を行う面白さってどんなところにありますか。
S:…なんでしょうねぇ、自分が作品を作るときは、面白いとかってよりも、まだ見たことがないものを見たいって思ってつくってますね。一方、依頼型の場合、例えば『わが町可児』なんかでは、知らない人と出会って、その人たちを喜ばせられると嬉しいですよね。

M:続いて、ご自身の書かれる戯曲についてなんですが、近代の戯曲にみられるような心理描写や、ある特定の人物たちを俳優に演じさせるというものとは質が違うように思いますが…。
S:そうですね、なんか人間を別に登場させたい訳じゃないと思うんですよ、もっとその概念的なことだったり、その、人でも“人類全体”とか、あと“山”とか、なんか人間じゃなく“もの”とか、“時間”とか、そういうのを演じたいようなところがあって。昔はそういう(人を演じる)風にやっていたんですけどね。もっと上手い人がいるし、今までもあるので、もっと違うことやってみようかなって。
M:あー、そういったことで今のようなかたちに。そしてご自身の劇団『ままごと』ですが、その名前からは、演劇を気軽に楽しんでもらいたいというような思いがあるのでしょうか。
S:そうですね、市民参加のお芝居をつくる時はもっと間口を広げるままごと、演劇なんてままごとと同じ感覚でやっていいんですよってことなんですけど、自分たちでやる時は、やっぱり人が真似できないままごと、プロとして、間口は広く奥行きは深くしたいなぁっていうのは、いつも思っています。
M:その、もう少し“ままごと”感覚っていうところを聞かせてもらえますか。
S:あー、その舞台があって、客席があって、いわゆる劇場じゃないとできないって考えが多いので、そんなことは全くなくて、まずは、その人がそのまんまでいられれば、そして演出家がちゃんと構成を立ててつくってあげれば、劇ってものはつくれるんだってことですね。
M:『あゆみ』を見させてもらったんですが、舞台を見ていてイメージしたのは、いろんな形のグラスがあって、そこに、ワインやシャンパンを注いでいくと、ワインのグラスになったり、シャンパンのグラスになったりと、グラスに名前がついていくような、でも、その中身を入れ替えてしまえば、名前も性格も変わってしまう感じがしました。
S:『あゆみ』は、誰にでも起こるようなことを、こちらの作為ではなく、ランダムに表したかったんです。それに別に誰が何役やるかってことは、そんなに大して重要なことではないって思っていました。だからこれが演劇でこれは演劇でないとか、どこかまだ固定概念にとらわれてるんじゃないかっていうのは、いつも考えますね。
M:それは、作家として創作するときも意識されていることでしょうか。
S:そうですね。でも劇作家はむしろ、あんまり新しい必要はないので、演出家は、やっぱり揺さぶっていかなきゃいけないですね。人と同じ演出、今までにある作品ではしょうがないので。劇作家としても、やっぱり今までにない作品を書きたいとは思いますけど、でも目新しさってよりか、もっと大きな、向こう十年とか二十年とか、何十年も先があるような新しい戯曲ですね
M:『わが星』の台本を読ませて頂いたんですが、あれは、ワイルダーの『わが町』と関係があるのでしょうか。
S:『わが町』ってよりもワイルダーの持つ世界観というか、空気感っていのは相当意識しましたね。タイトルだけ拝借して、あとは、考え方だとかそういったところは意識しました。


M:お客さんのことは、どれくらい意識してつくられますか。
S:いや、初めて見るお客さんがどういうふうに見るかということしか考えてないので、基本的に。あんまり戯曲の世界を突きつめるとか、完成させるとかよりも、お客さんに面白い形で組み立てられるように注意しています。
M:演劇を遊ぶっていうか、どう関わっていきたいかっていうところを聞かせていただけますか。
S:でも同じことはそんなに長く続けられないみたいで、そこは諦めていますね。なにか一回面白いルールで遊んじゃったとしても、もっと新しいルールを追加してみようとか、その都度、その都度遊び方を変えていくと思います
M:お客さんにとってどんな“ままごと”であり、柴でありたいと思いますか。
S:子供くらいからおじいちゃんおばあちゃんまで見て面白い。しかもエンターテイメントとは違う面白いって言われるような、なんかわかんないけどスゴかったって、そういうようなものをつくっていきたいなと思います。
M:話の中で、初めは芸人になって、人を楽しませたかったということもありましたしね。
S:そうですね。それと、驚かせたいですね。
M:では、最後に今回の『アセリ教育』の見所は。
S:見所は、くだらないところですね。(両人笑う)。とくに、でも中屋敷くんの台本って、そのくだらないところが魅力で、ナンセンスというか、最近くだらない台本を書ける人が少なくなってきているので、そこで、こんなにただ意味のないシーンが続く芝居ってのはそんなにないよっていうのと、やっぱり、俳優がいろんな役ってのを演じ分けて、テンポよく出てははけていくので、スポーツを見るような感じで楽しんでもらえればと思います。
M:稽古を見ていても、ずっと笑い通しで、楽しませていただいたので、ぜひ、いろんなお客さんに足を運んでもらって、楽しんでもらいたいですね。本番までの稽古でまだまだ面白くなると思いますので、今から待ち遠しいですね。本日はお忙しい中ありがとうございました。

2011年1月 うりんこ劇場事務所にて収録